デルバールの バラ苗が できるまで
“バラ園”と言うと華やかな印象を持つ人も多いようですが、バラ苗の生産は、花が咲いている期間はほとんどなく、とても地味で地道な作業なんです」と語るのは河本バラ園の代表取締役社長、河本茂樹氏。台木のタネまきから始まり、製品として出荷されるまで、一つのバラ苗ができるまでには、数々のプロセスを踏み、2年以上の月日を要します。
日本には日本に合った台木がある
バラの苗のほとんどは、増やしたい品種の芽(または穂木)を、別の品種の台木に接ぐ「接ぎ木苗」。デルバールを含め、河本バラ園で生産されるバラ苗はすべて、台木にロサ・ムルティフローラ(ノイバラ)が使われています。同じデルバールブランドの苗でも、日本とフランスとでは使われる台木の種類は異なります。その理由は、それぞれの国の気候や土壌に合った台木を使わないと、健康で丈夫に育たないからです。日本の場合、特に梅雨時から夏にかけての高温多湿の時期に耐えられるかどうかが大切なポイントで、ロサ・ムルティフローラはその条件に合致した台木なんだとか。「根がしっかり育たないと、地上部も健康には育ちません。これはバラだけでなく、すべての植物に言えること。だからこそ丈夫な台木づくりは、バラ苗づくりの基本であり、根っこまでが商品だと考えています。台木には当バラ園のこだわりが詰まっています」と河本社長は語ります。
良質な台木ができるまで
では、こだわりの台木はどのように作られるのでしょうか——–?。河本バラ園では、台木にするロサ・ムルティフローラをタネから育てています。秋に実を採種しタネを採り、12月頃にタネをまき、移植できる大きさに育ったら、一旦すべて掘り上げて良い苗・悪い苗を選別し、良い苗だけを残します。ちょっと可哀想ですが、3〜4割は破棄される運命に…これも良いバラ苗づくりのためには仕方ないことなのです。そして5月にこの質の良い赤ちゃん苗を畑の畝に定植します。機械ではなく1本1本手で植えていく様子は、まるで昔の田植えのようです。ちなみに、1シーズン分の台木を育てる畑の面積はおよそ1.5ヘクタール、そして大苗などを植える畑は4ヘクタールと、1年分のバラ苗を育てるには約5.5ヘクタールもの畑が必要だと言います。でも、それだけではありません。連作障害を避けるため、一度バラを育てた土壌は最低でも1年以上、デルバールの大苗の場合は、3年以上休ませた畑で作られます。このようにバラ苗は年ごとに畑の場所を移動しながらローテーションで育てられるので、さらに広大な畑が必要になります。河本バラ園では、バラ苗づくりのために約15ヘクタール(東京ドーム3個分!)の広大な土地を管理しているというからビックリ!
デルバールのバラの品種改良は、耐病性も重視して行われているため、年々病気に強い新品種が登場しているのも確か。でも、デルバール苗が病気に強く育てやすいのは、日本の気候や土壌にあった品質の良い台木が使われているからこそなのです。
芽接ぎと切り接ぎの違いとは?
畑に定植された台木用の苗は、6〜8月の間、消毒や草引きなどを行いながら大切に管理されます。そして、秋になるといよいよ接ぎ木の作業がスタートします。接ぎ木とは増やしたい品種の芽または穂木を、台木の生長点に密着させてテープを巻き、形成層同士を融合させる作業。河本バラ園では、秋9月〜10月頃に芽を台木に接ぐ「芽接ぎ」と、1〜3月に穂木を台木に接ぐ「切り接ぎ」の2通りの接ぎ木方法をとっていますが、芽接ぎと切り接ぎの割合は7:3ぐらいで、芽接ぎがメインで行われます。
芽接ぎと切り接ぎの違いは、作業時期だけではありません。芽接ぎは台木が畑に植わっている状態で行う屋外での作業(炎天下で行うので暑さとの戦いだとか!)。畑に植わっている状態の台木1本1本に芽を接いでいくわけですが、これは台木から育てているからこそできる接ぎ木方法です。また、経験と技術がその後の活着率を左右するとあって、まさに職人技です。一方、切り接ぎは休眠期に行う屋内での作業。芽接ぎをしなかった台木(または芽接ぎで活着しなかった台木)を12月迄に掘り上げ、翌年の1〜3月の間に切り接ぎ専用の部屋で、台木に穂木を密着させてテープを巻き固定していきます。河本バラ園では、基本的には芽接ぎをメインにしていますが、切り接ぎも並行して行うことで、より安定したバラ苗の供給につなげています。
生長に合わせて、掘り上げたり植え込んだり…
畑の台木は芽接ぎをした株もしなかった株も、11〜12月にすべて畑から掘り上げられ、一部は切り接ぎ用の台木にまわし、芽接ぎで活着した株はハウス(温室)の中に植え込みます。いきなり屋外のほ場(畑)ではなく、一旦ハウスの中で管理するのは、接ぎ木をしたばかりの株は、屋外の環境に耐えられない弱い状態だからです。そしてある程度しっかりとした株に生長したら、春に「新苗」として出荷する株と、冬に出荷する「大苗」の株に分けられます。大苗用の株はハウスでの管理の後、3〜6月上旬に大苗用に作られた屋外の「ほ場(畑)」に植え込まれます。このように、台木づくりの段階から、掘り上げと植え込みを何度も繰り返し、ようやく新苗として出荷されたり、大苗用の株は最後の移植先となるほ場へと定植されるのです。
絶え間ない夏の管理で、丈夫な株に!
バラを育てたことがある人なら、病害虫対策や暑さ対策など夏場の管理がどれほど大変かおわかりになるハズ。それはバラ苗生産者も同じこと。ほ場へと定植された大苗用の株は、病害虫が心配になる梅雨時の6月から10月頃まで、消毒やピンチ(摘芯)、草取りなどを行いながら管理されます。花を咲かせることなく、芽が出たらすぐに摘み取るピンチは、丈夫な根を育て成熟した大苗にするためには欠かせない作業。炎天下の中、株1本1本をピンチして行くのですが、ほ場の広さは5ヘクタール以上!ようやく一巡する頃には、最初の株の芽が出てきてしまうのだとか。まるで<いたちごっこ>のような作業です。
こうして夏の間、万全の管理のもと育てられた株は、11月頃から掘り上げられ、大苗(2年生苗)として出荷されます。出荷する大苗の基準は男性の指の太さ程の枝が、株元から3本は出ていること(※)。生育には問題なくても、その基準を満たさない株は、可哀想ですが廃棄される運命に…。接ぎ木した数ヶ月後の春に出荷される新苗が赤ちゃん苗なら、接ぎ木してから1年間大事に大事に育てられた大苗は抵抗力もしっかり身に付いた成熟苗。これだけ手をかけて育てられるわけですから、新苗よりも大苗の方が少々高めなのも納得です。
※品種特性によって適切な枝の太さ、本数が異なることがあります。
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