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旬の園芸レッスン
2021.03.31

教えてください。育種のこと、バラのこと。ローズクリエイター・木村卓功さんインタビュー

今、最も熱い視線が注がれるローズクリエイター、木村卓功さん。誰もが親しめる育てやすさと、多様な美しさを追求し続ける木村さんに、育種というお仕事の話から、今後の夢まで、根掘り葉掘り聞いてみました。

ガーデンローズとの出会いについて

ーーー最初のバラとの関わり、バラの思い出は?

 「私は江戸時代から続く農家の19代目で、私が小学生の頃、父が切花のバラの生産も始めました。それが最初のバラとの関わりです。でも、当時は遊び盛りの子供ですから、家の手伝いをさせられるのが嫌で、<バラ=僕の遊びを奪う存在>でしかなく、子供の頃の思い出は最悪です(笑)。ガーデンローズ(=庭で育てるバラ)に興味を持つきっかけになったのは、中学生の頃に出会った『ピース』。ハイブリッド・ティで大輪のこのバラを見て、バラってキレイだなぁと初めて感じて、これなら仕事にしてもいい!と思いました。あと、切花のバラは、生産者から市場、小売店を経由してようやく消費者に届けられます。長い輸送のことも考慮して育種が進められてきたので、花びらは硬く、香りもそれほどありません。香りが良いと花もちは悪くなりますから…。それに対して、ガーデンローズの使命は庭でキレイに咲くこと。だから、軽やかに美しく咲いて、香りもものすごく良い。ガーデンローズには、切花にはない大らかさがあると思います」

▲ピース 1935年作出。黄色に薄いピンクの覆輪が入る大輪の花がとても美しい。フランスの育種家、フランシス・メイアンの最高傑作。

育種家になるきっかけ

ーーー ガーデンローズを仕事にすると言っても、なかなか育種には結びつかないのでは?

「私の父はちょっと変わっていて、切花のバラの生産だけでなく、直販店でガーデンローズの切花の販売も行っていました。そんな関係もあって、私が19歳の頃、大手バラ園主催のヨーロッパ視察旅行に参加することになり、フランスのメイアン社、ドイツのコルデス社など、名だたるナーセリーを訪ねる機会に恵まれました。『ピース』に出会ってガーデンローズに興味を持って以来、育種に関する様々な本を読んでいたのですが、ヨーロッパのトップの育種家の仕事を見て、『俺にもできる!』と思いました。すごい自信家でしょ?多分、若さのせいですね(笑)。ちなみに、この視察の参加メンバーで、後に育種家になったのは私だけですから、バラの仕事で育種家になるというのは、レアなケースでしょうね」

ーーー 木村さん作出の第一号は、グリーンの花色が特徴的な『わかな』ですが、デビュー作としては冒険だったのでは?

 「『わかな』は25歳の時に作出し、32歳で発表したバラです。当時、育種家としては無名の存在ですから、自分が作ったバラを大手バラ園に提案しても、全く相手にしてもらえません。ならば、よくある色のバラではなく、変化球で行こう!そう思って作り出したのが、グリーンの『わかな』です。それでも全然相手にされませんでしたが…(笑)。今では『わかな』は、グリーンのバラとしてたくさんの人気をいただいていますが、それはインターネットという大きな時代の変化が原因です。当時はちょうどインターネットによる流通が盛んになってきた頃でした。それまで愛好家は、大手の会社や老舗を通してバラを購入するしかなかった。ところが、インターネットの時代になって、育種家自身が自分のバラをプロデュースし、愛好家と直接繋がることができるようになりました。大手バラ園には相手にされなかった『わかな』はネット販売すると、想定の10倍以上があっという間に売れたんです。この数字って愛好家の総意の表れで、私のセンスは正しかった!と確信させてくれました。愛好家に直に届けられて、直に反応が得られるというインターネットのおかげで、自分の選抜センスは磨かれ、目指す方向が見えてきたのだと思います。」

ROSE TRIVIA

『わかな』(2006年発表)

木村さんが初めて世に送り出したバラで、今ではグリーンのバラの定番とも言える存在。グリーンの蕾から、咲き進むと白とグリーンのグラデーションの花色に。花持ちが良く、低温期なら3週間以上咲き続け、肥料を控えめにするとグリーンがより濃く出る。

バラをアジアのものに!ロサ オリエンティス誕生

ーーー 2013年、ロサ オリエンティスを立ち上げられますが、そこに込めた思いとは?

 「以前は、ロゼット咲きやカップ咲きなど、ロマンティックな花を咲かせるシュラブローズというと、ヨーロッパから導入されたものが人気でした。でも、いざ日本で育ててみると、四季咲きと書いてあるのに春しか咲かない、大きくなり過ぎるなど、本来の特徴とはかけ離れたバラになってしまう。これは誰のせいでもありません。ヨーロッパのように高緯度で、冷涼な場所で育てれば、四季咲きで咲き、コンパクトに育つのです。同じバラを気候の違う日本に当てはめること自体に無理があるのです。そこで私は、低緯度で高温多湿な日本やアジアの環境でも、秋までしっかり咲いて、木も大きくなり過ぎず日本の住宅事情にも合う、そんなシュラブローズを作り出そうと考え、それを育種思想としてロサ オリエンティスを立ち上げました。ロサ オリエンティスという名前は、ラテン語で <東洋のバラ>を意味しますが、『バラをアジアのものにしよう』『欧米のバラをありがたがる時代は終わりにしよう』そんな思いも込めました」

ROSE TRIVIA

『シェエラザード』 (2013年発表)

木村さん自らのブランド、ロサ オリエンティスのスタートを飾った記念すべき品種で、今でも根強い人気を誇る代表作。紫がかった濃いピンクの中輪花で、先端がツンと尖った花びらは、何とも個性的で艶やかな印象。

バラ初心者こそ、プログレッシオを!

ーーー ロサ オリエンティスのサブブランド『プログレッシオ』と、それまでの品種の違いは?

 「プログレッシオ以前の品種、例えば『シェエラザード』『オデュッセイア』などは、日本の環境にあった四季咲き性や木のまとまりを目標にしてきました。そうした性質や花の美しさはそのままに、ロサ オリエンティスを進化させて、耐病性をグッと高めたバラを作ろうとスタートしたのがプログレッシオです。代表品種は『シャリマー』『マイローズ』ですが、ラテン語で<進化>を意味するサブブランド名どおり、今後も新たな品種を発表し続けていきます。」

ROSE TRIVIA

『マイローズ』(2019年発表)

耐病性抜群のプログレッシオの一品種。「こんなに美しい赤は他にない」と、木村さんが自画自賛(?)するほど、どの季節も色褪せない冴えた赤色が印象的。小さめのコロコロとした可愛らしい花を次々と、たわわに咲かせてくれる。

ーーー 無農薬で育つかどうかは、どうやって見極めるのですか?

 「無農薬の試験って、ものすごく怖い。膨大なデータから母親と父親を決めて交配し、タネを撒いて育て、選抜したものを無農薬で育てるわけですが、私たちが育てる場所は田んぼのような畑。水はけが悪く、家庭の庭よりもずっと病気が出やすい厳しい環境。数千本の苗のほとんどが葉っぱを落としてボロボロになってしまうこともあります。我が子のように育てたバラがそんな姿になるのを見るのは本当に辛く、それで無農薬を断念してしまう育種家も多い。もちろん私だって辛いですが、何千本ものバラの中に、ほんの数本、何とかなりそうなものもあります。昨年発表した黄色い花色の『リュシオール』も、ほとんどのバラが葉を落とし、畑一面ボロボロで心が折れそうになっていたところ、一本だけすっと立っているバラの姿があったのです。それは、まるで一筋の光が差しているかのようで、後にフランス語でホタルを意味する『リュシオール』と名付けました。このバラは、第18回ぎふ国際ローズコンテストで金賞をいただきました。こうしたコンテストには、必ず自分の畑で何年間も無農薬で育ててみて、『これだったら行ける!』と確信したものだけを出品します。また、これらの試作を育てる畑では、ヨーロッパのブランドローズで耐病性が高いと謳われている品種を一緒に植えています。育種家はどうしても自分が作った品種をひいき目で見てしまいがち。だから同じ条件下で、他のものと比較することって、とても大事なのです」

ROSE TRIVIA

ぎふ国際ローズコンテスト>

日本の気候風土に合う耐病性に優れたバラの選抜を目的に、花フェスタ記念公園(岐阜県)で毎年行われているコンテスト。出展作は園内で2年半かけてほぼ無農薬の状態で育てられ審査されます。

今は固定観念に捉われず、バリエーションを増やす時

ーーー 新しいバラ選びの基準は、花の美しさから、育てやすさへと変わっていくと思われますか?

 「バラの魅力は、あくまでも花の美しさ。そのバラを見て心がときめくかどうか、非日常を感じられるかどうかです。そこに耐病性=無農薬でも育てられるような強靭性を共存させなければいけないと思っています。2000年に発表された『ノックアウト』は、それまでにないほどの高い耐病性を備えていることで注目されました。でも、花は一重から半八重咲きで、私はそれほど花の魅力を感じません。耐病性が高いということは、病気にかかりにくく葉を落とさないということ。それは、花の美しさにもつながります。私は、シェエラザードレベルの魅力を持ち、ノックアウトレベルの耐病性を兼ね備えたバラを目指そうと考え、育種に取り組み続け、プログレッシオへとつながったわけです」

▲ノックアウト 2000年/メイアン社作出。品種名は病気をノックアウトするという意味から。2018年世界バラ会議で、バラの殿堂入りを果たす。

ーーー 今後、プログレッシオはどのように展開していくのでしょうか?

 「これまでのロサ オリエンティスを耐病性という機能面で、グンと底上げし垂直方向へ進化させたのが現在のプログレッシオです。今後はこのバリエーションを増やしていく水平方向の時期だと思っています。バラの一番の良さは<多様性>。私は一重のバラもハイブリッドティも好きですし、花の色も形も香りも樹形も、固定観念に捉われず柔軟でありたいと思っています。ロサ オリエンティスはこういうイメージ、という枠を作ってしまうと、伸び代がなくなってしまいますから」

ーーー 目的地にたどり着いたと思えば、次の目的地が見えてくる。バラの育種には終わりがないからこそおもしろく、飽きることのない天職、と木村さんはおっしゃいます。育てやすく手間がかからないバラの次は、一体どんなバラの時代がやってくるのか?本当に楽しみです。

ROSE TRIVIA

「育種はデータが命」

バラの育種方法は、簡単に言えば、母親の花(種子親)と父親の花(花粉親)を交配し、新しい品種を作り出すこと。でも、バラは交配が複雑に繰り返されているので、同じ母親と父親でも、完全に同じ子は生まれません。また、交配する親ごとに、優先して受け継がれやすい性質があって、品種ごと、組み合わせごとに違ってくるそうです。「育種する時は、母親と父親は何かなど、必ず細かいデータをとってあり、このデータをどれだけ蓄積できるかが、育種家の実力」と木村さん。まさに、育種はデータが命なんですね。しかも、交配から新品種の発表までは最低5年、時には10年以上かかるというから、気が遠くなるほどの時間と根気が必要なのです。

 

この果実の中に種子が入っている。一回で採取した約20万粒のうち、データに基づいて振り分けられ、約半分が畑に撒かれる。

⇨ロサオリエンティス品種紹介動画をご覧いただけます。


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